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長谷川町蔵さん『ガールフッド』特別寄稿

10/14・15(土・日)の2日間、東京藝術大学大学院映像研究科・横浜市文化観光局オープンシアターと企画協力のグッチーズ・フリースクールにより開催される未公開映画上映会にむけ、15日の上映作品であるセリーヌ・シアマ監督の『ガールフッド』について、文筆家として映画や音楽と様々な分野で活躍されている長谷川町蔵さんに特別寄稿を頂きました!!!

映画の舞台となる「バンリュー」の実態や印象的な音楽についてなど、映画の核となる部分について書いて頂いた本稿を読んで、是非10月15日の『ガールフッド』に足をお運び下さい!!

 



「バンリューのダイアモンド」

 

夜のグラウンドで、褐色の肌をしたティーン女子たちがアメフトの試合に興じている。

『ガールフッド』のそんなオープニング・シーンを何も知らずに観たなら、アメリカ映画と勘違いするかもしれない。でもBGMとして流れているエレポップに耳を澄ますと、歌われている言葉が明らかに英語ではないことに気づくはず。そう、本作はパリ郊外を舞台にしたフランス映画なのだ。

もし君がパリで何日か過ごしたなら、ファッション雑誌で報じられている以上に人種的に多彩な街だと感じるだろう。統計によると、フランスには現在530万人の移民と650万人の移民二世が住んでおり、全人口の約19%にあたる。その約半数を占めるのが、本作の登場人物たちが属するアフリカからの移民グループだ。

彼女たちが暮らしているのはパリ市街ではなく、郊外に建設された巨大な公営住宅群だ。もともとフランス語で「郊外」という意味を持っていたバンリュー(Banlieue)は、いつしか移民が住む公営住宅を指す言葉となり、90年代以降に失業率の増加に伴う犯罪が増加した結果、アメリカにおける<ゲットー>とほぼ同義語になった。バンリューの若者たちの生活を描いたマチュー・カソヴィッツ監督作『憎しみ』(95年)は、フランス国内で大ヒットしただけでなく、世界中にバンリューの存在を知らしめた。

『憎しみ』は、劇中でアフリカ系の移民二世がフランス語でラップするフランス産ヒップホップを流したことでもエポックメイキングな作品だった。当時はまだアンダーグラウンドな音楽だったヒップホップは、現在フランスのティーンにとって最も人気の高い音楽ジャンルに成長している。『ガールフッド』の撮影が行われたパリ北東部のセーヌ=サン=ドニ県のバンリューからも、シュープレムNTMやスナイパーといった人気アーティストが登場している。

ヒップホップ以上にバンリューが貢献しているのがスポーツ界だ。というのも、現在のフランスのサッカー選手にはバンリュー出身者が多く含まれているからだ。もはやバンリュー抜きではフランスの音楽もスポーツも語ることが出来ない。その事実は、いくら極右政党の国民戦線が白人だけが住む国を夢想しようが打ち消せない。

とはいえ問題もある。バンリュー出身の黒人の男たちが年々ポジティヴに描かれるようになった一方で、女性が描かれること自体がとても少ないのだ。『ガールフッド』はその壁を打ち破った作品でもある。

監督のセリーヌ・シアマは白人女性だが郊外出身であり、現在の郊外の典型的なティーン女子を描きたいとの発想を煮詰めていった結果、その大多数を占める黒人女性をキャスティングしようと心に決めたという。しかしパリには黒人女優自体がそれほどいなかったため、素人をスカウトせざるを得なかったそうだ。『ガールフッド』のメインキャスト四人の中で、演技経験があった者は誰もいない。でも彼女たちの切実さは、演技の拙さを補って余りあるし、それまで誰も描こうとしなかった本当のパリ郊外のティーンエイジャーを体現している。

公園にいるところをスカウトされたという本作の主演女優カリジャ・トゥーレは、脚本を読んだとき、主人公と過去の自分の境遇があまりにも似通っていたことで驚いたという。

そのトゥーレが演じる主人公の名はマリエム。16歳の彼女は、父親がいないため仕事に忙しい母親と、抑圧的なだけの兄に代わって、幼い妹たちの世話を引き受けており、そのために既に一回ダブっていた中学の最終学年を修められず、普通高校に進学する道を絶たれてしまう。

学校からの最後通告によって、人生の可能性が狭められたその直後にマリエムは、レディ、フィリー、アディアトゥの三人と知り合う。ガール・ギャングとして忌み嫌われているレディたちを最初は避けていたマリエムだったが、周囲の目を一切気にしない態度に惹かれてギャングの一員になり、やがて地元のドラッグ・ディーラーのもとで働くようになる。

観る人によっては、悲しい少女の転落人生劇に見えるかもしれない。でもマリエムが人種差別と性差別が横行する悲しい世界で、生き残る道を何とか見つけたことは間違いない。それまで孤独だった彼女が何でも話し合える仲間を得る。目立たなければいいという態度だったのが、髪を長いストレートに伸ばして、体の線が浮き出たデニムの服を着て街を出歩くことで笑顔が増えていく。それまでシャイで男子と言葉も交わせなかったのに、憧れていた男子と付き合うようになる。そしてライバル・グループに喧嘩で負けたレディの敵討ちを果たして、同世代の仲間たちからリスペクトを獲得する。シアマは彼女の転落を裁かない。その代わり、成長をクールに捉え続ける。

本作で最も印象的なシーンは、万引きに成功したマリエムたちが、ホテルの一室に入るなり万引き防止タグが付いたままのドレスに着替えて、四人でリアーナのヒット曲「ダイアモンズ」をリップシンクしながら騒ぐシークエンスだ。

「ダイアモンドのように明るく輝こう/美しい海で光を見つけよう/幸せになることを選ぼう/わたしたちはまるで空で輝くダイアモンドみたい」

ホテルの青い室内照明の下でそんな歌詞を歌い踊りながら、彼女たち自身もダイアモンドのように明るく輝いていく。その姿は、今年のアカデミー作品賞作『ムーンライト』の中で語られる「月明かりの下で、黒人の子どもが青く輝く」姿を思い起こさせる。月明かりの下で本当の自分を発見する『ムーンライト』の主人公と同様に、内気なマリエムも身体の奥底に眠っていた強い自分を発見するのだ。もっとも照明は月ではなく人工的な照明なので、輝きはもっと刹那的ではあるけれど。

リアーナおよび彼女のスタッフは楽曲の権利関係に厳格らしく、楽曲の使用許可を申請してきたシアマに対して、実際のシーンを観ないと判断出来ないと返答してきたらしい。シアマは曲を使えるかどうかも分からないのにシーンを先に撮影して、データを送らざるを得なかったそうだ。だがリアーナたちはこのシーンを観たあと、シアマに最低料金で曲を使用することを許可したという。


長谷川町蔵

文筆家。最新作は「サ・ン・ト・ランド」。ほかに「あたしたちの未来はきっと」「21世紀アメリカの喜劇人」、「ヤング・アダルトU.S.A.」(山崎まどかとの共著)「文化系のためのヒップホップ入門」(大和田俊之との共著)など。


『ガールフッド』
Bande de filles
フランス/2014年/113分/カラー
監督:セリーヌ・シアマ
出演:カリジャ・トゥーレ アッサ・シーラ リンゼイ・カラモゥ

パリ郊外に住む16歳のマリエムは、忙しい母親と暴力的な兄の代わりに小さい妹たちの面倒をみる日々。そんな状況に鬱屈していたある日、不良の少女たちと出会いつるむようになるマリエム。次第に抑圧されていた感情を吐き出すように家族とも距離を置きはじめ、より危険な世界に足を踏み入れて行く……。少女たちの衝動と痛みを鮮やかに描いた、フランス人女性監督による傑作青春映画。

東京藝術大学大学院映像研究科映画専攻イベントHP
http://geidai-film.jp

 

★予告編


MAIN ARTICLE

Killer of Sheep

スラム街に暮らす黒人たちの暮らしを鮮やかに描き、望まれながらも長らく劇場公開されなかった、黒人監督チャールズ・バーネットによる幻の傑作。 1970年代中頃、ロサンゼルスにあるワッツ地区。黒人たちが住むそのスラム街で、スタンは妻と息子、娘の4人で暮らしている。スタンは羊などの屠処理の仕事をし、一家は裕福ではなくても、それほど貧しくはない生活を送っていた。しかし仕事に励むなかで、日に日にスタンの精神は暗く落ち込み、眠れない日を送るなかで妻への愛情を表すこともしなくなっていた。 子供たちが無邪気に遊びまわっている街は、一方で物騒な犯罪が起き、スタンの周りの知人友人にも小さなトラブルは絶えない。 そんななか、家の車が故障したため知人からエンジンを買おうと出掛けるスタン。しかしエンジンを手に入れたスタンは、その直後思わぬ事態に見舞われるのであった……。

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