Gucchi's Free School

日本未公開・未発売の映画DVDを紹介する情報サイト

Gucchi's Free School > 雑記 > レポート > 第15回東京フィルメックス鑑賞レポート 『プレジデント』(2014/モフセン・マフマルバフ)

第15回東京フィルメックス鑑賞レポート 『プレジデント』(2014/モフセン・マフマルバフ)

・・・東京フィルメックスとは?

アジアを中心とする世界から、既成の概念にとらわれない作家性の強い映画を集め・紹介する映画祭として、2000年に発足。2014年の開催で15回目を数えた。

第15回フィルメックスでは、3本の映画を拝見しました。その中でも、イラン人監督モフセン・マフマルバフの新作『プレジデント』について書きます。
モフセン・マフマルバフはアッバス・キアロスタミや、ジャファール・パナヒなどと同じ世代のイラン人映画監督です。マフマルバフの作品『サイクリスト』は国際映画祭でも高く評価され、本国イランでは見たことがない者はいないとまで言われる大ヒットを記録しました。現在は政治的な理由からイランを亡命し、世界各地で映画を撮影しています。今回の『プレジデント』もグルジアを中心として撮影されました。


あらすじ

舞台は老独裁者に支配されている架空の国。ある日、クーデターが勃発。妻と娘たちはいち早く国を脱出してしまい、残された独裁者は幼い孫を連れて逃亡の旅 に出る。ボロボロの服を着て旅芸人に扮した独裁者は、行く先々で自分の圧政のために苦しんできた人々を目撃する。

(第15回東京フィルメックス公式サイトより引用)

プレジデント1

プレジデント2

公開前なので、この作品を見て一体何に注目したか、という点に絞って書いていきます。まず主人公である大統領の権力がクーデターで無くなり始める冒頭について書くことにします。

書類仕事をこなす独裁者と、その孫がある部屋にいます。独裁者は孫をあやすために面白いことをしようと、発電所に電話をかけます。2人の視線の先には夜の町があり、老人が「消せ」と電話に呼びかけると、眼前の町の街灯が全て消えます。突然が街灯が消えた街は静けさから一変してクラクションの音が鳴り始めます。少し経って今度は独裁者が「点けろ」と言うと、再び街灯がつきます。

祖父の手品のような権力を面白がる孫は自分も祖父を真似て、電話を通じて街灯を操ります。
「消せ、点けろ、消せ、点けろ、、、点けろ、、、?」。
突然、孫の命令に反応がなくなり、街灯が消えたままになります。老人が言っても変化がない。すると視線の先にあった街の所々から光が勝手に明滅し始め、同時に銃声が鳴り響きます。独裁者である老人はここで革命に遭遇するわけです。

プレジデント3

街の光を一人の人物の意思によって、自由に明滅させることで独裁者の権力を示す。これは一つのスペクタクルです。そのスペクタクルの流れを打ち崩すように、光の不規則な明滅を提示することで、今度は権力の転覆を描く。見事な照明使いにハッとさせられてしまう訳です。この瞬間、もうこの映画はヤバい何かが起きてしまう!と一人で興奮してしまうのです。これはCGもあるのかもしれませんが、点いたり、消えたりという映像だけについつい見入ってしまう自分がいるわけです。
イランの名匠の照明使いにまずは注目していただきたいです。


次に醜悪な死や暴力といったものへの態度についてという、ちょっと真面目な話を書きます。

映画の中にはもちろん人が死ぬ場面もあれば、暴力がふるわれる場面もあります。この映画も例外ではなくて、沢山の死や暴力が描かれます。しかしその中でも、この映画には二つの区別があると思います。集団による暴力や殺人と、個人による暴力や死です。
たとえば中盤、逃げる2人を含む一行が乗る車が検問所を通るシーンがあります。検問所にいる、腐敗した兵士達による一方的な暴力を目撃しなければならない。だが我々観客は、この暴力をこのシーンで直接目にすることはありません。ただ画面には映らないオフ・スクリーンの場を想像して、このシーンを見ることになります。

それに対比されるように、明確に死が描かれる場面があります。
政治犯であった人々が帰宅した先に出会う悲劇の中で出来事が起こります。これは集団の間ではなく、個人間の恋愛問題がきっかけとしてあります。その結果、ある元政治犯の青年は自殺する訳ですが、わずかですが明確に自殺が描かれます。
ですが、そのシーンでは次のカットで待ち構えている元独裁者の孫に向かって、こう叫ばれます。「だめだ!子供に見せるな!」と。

考えてみれば、元々キアロスタミやマフマルバフらは、イラン時代には若者や子供への教育の為に映画を作る団体に所属していました。子供が出ている映画に今回、立ち戻ったとも言えます。その子供へ醜悪なものを見せない意識とでも言いますか。別の形かもしれませんが、そういった倫理的意識のようなものがこの映画の中にあるような気がします。実は、死や暴力の場面に孫が遭遇している箇所を見ると、結構明確に分けられていたりする訳です。
このような考えに至った根源が、ラストシーンにあるわけですが、これは是非今年中に公開されるので、是非ご覧になって考えていただければ、と思います。

プレジデント4

追記

マフマルバフを、「マフマクバル」とか「マクマフバル」とか、たまに混同して間違えてしまいます。ちなみに他にフィルメックスで見た映画は『Sharing』と『西遊』です。

参考映像

映画『プレジデント』海外版予告編(英語字幕付き)

参考サイト

第15回東京フィルメックス

COMMENTS

コメントをどうぞ

内容に問題なければ、下記の「送信する」ボタンを押してください。

MAIN ARTICLE

Killer of Sheep

スラム街に暮らす黒人たちの暮らしを鮮やかに描き、望まれながらも長らく劇場公開されなかった、黒人監督チャールズ・バーネットによる幻の傑作。 1970年代中頃、ロサンゼルスにあるワッツ地区。黒人たちが住むそのスラム街で、スタンは妻と息子、娘の4人で暮らしている。スタンは羊などの屠処理の仕事をし、一家は裕福ではなくても、それほど貧しくはない生活を送っていた。しかし仕事に励むなかで、日に日にスタンの精神は暗く落ち込み、眠れない日を送るなかで妻への愛情を表すこともしなくなっていた。 子供たちが無邪気に遊びまわっている街は、一方で物騒な犯罪が起き、スタンの周りの知人友人にも小さなトラブルは絶えない。 そんななか、家の車が故障したため知人からエンジンを買おうと出掛けるスタン。しかしエンジンを手に入れたスタンは、その直後思わぬ事態に見舞われるのであった……。

EVENTS

DIARY

REVIEWS

PUBLISHING