『ワン・フロム・ザ・ハート リプライズ』トークショー採録
11/30に新宿武蔵野館で行われた、渡部幻さんと大森さわこさんによる『ワン・フロム・ザ・ハート』上映後のトークショー採録をお送りします!
──本日は『70/80年代 フランシス・F・コッポラ 特集上映 -終わりなき再編集-』にお越しくださいましてありがとうございます。これから映画批評・編集者の渡部幻さんと、映画評論家・ジャーナリストの大森さわこさんをお呼びしてのトークを始めたいと思います。それではまずは渡部さんから『ワン・フロム・ザ・ハート』の感想からお伺いできればと思います。
渡部:初めまして、渡部幻です。僕はこの映画を偏愛しているんです。82年の公開当時は、批評などで小馬鹿にされている雰囲気がありましたので、恐る恐る劇場に足を運びました。その日は観客が多く、特に女性客がほとんどでした。僕は一番前の席で見たのですが、華麗な映像に酔っぱらいましたね。このときは1981年の最初の公開バージョンで、前半にトム・ウェイツが登場していましたが、今回のリプライズ版では特に前半部分が刈り込まれて、テンポが良くなり、映像や音も綺麗になっています。公開から何度も見返してきましたが、まさかリバイバルされるとは思いませんでした。ぼくが面白いと話しても共感を得られない映画でしたので、今回のリバイバルはとても嬉しいです。
──ありがとうございます。それでは大森さんはいかがでしょうか。
大森:大森さわこと申します。今日はトークショーにお越しいただきありがとうございます。もちろん映画が目的でいらっしゃるのは重々承知の上でございますが、このおまけのトークショーを楽しんでいただければと思います。まず、皆さんに質問があります。今回『ワン・フロム・ザ・ハート』を初めてご覧になった方はどのくらいいらっしゃいますか?(観客の7割が挙手)
結構初めての方が多いですね。では、以前DVDや劇場で見たことがあるという方はいらっしゃいますか?(観客の3割が挙手)やはり何人かは映画自体がお好きでいらっしゃるんでしょうね。私はどちらかというと映画そのものよりも、サウンドトラックを偏愛しています。80年代にアナログ盤のレコードを購入し、何度も聴きました。その後CDでも聴くようになり、現在に至るまで定期的に聴いています。体の一部と言ってもいいくらいです。元々トム・ウェイツのファンではあったのですが、映画のサントラとしてとても愛聴しているんです。渡部さんはこの映画のどういう部分を偏愛されていますか?
渡部:映像と色彩ですね。主役2人の恋愛話が「陳腐」だと批判されていましたが、僕はフレデリック・フォレストとテリー・ガーが体現している日常性を気に入っています。繰り返し観るうちに、陳腐で、ささやかな物語だからこそ、画と音楽で表現された感情の世界が際立つのだと思うようになりましたね。
大森:この映画は多分、音と映像で見せるっていうことを目的に作った映画じゃないかと思うんですね。だから、逆にシンプルなストーリーにしたんだろうなと予想できますよね。
渡部:個人的で日常的な感情の世界を音楽と映像のスタイルで展開する映画は、現在の方が面白がられるのではないでしょうか。当時は、立派な物語やテーマ性の作品が多くて、また、そうでなければ一人前だと見なされないような傾向がありました。
大森:ちょっと内容は違いますけど、『ラ・ラ・ランド』のルーツがこの映画にあるような気もしますね。
渡部:そう言われていたような気がします。
大森:あと、ネオンが素晴らしいですよね。
渡部:コッポラは『ワン・フロム・ザ・ハート』を「ネオンについての映画」と仲間たちに伝えていたそうです。『地獄の黙示録』(1979)は「ヘリコプターについての映画」、『アウトサイダー』(1983)は「夕陽についての映画」だとインタビューで語っていましたね。
大森:なるほど。面白いですね。この映画は当時批判もありましたが、その後再評価が進みましたよね。
渡部:映像と音響の映画は、その後どんどん増えていきましたよね。80年代であれば、ウォルター・ヒルの『ストリート・オブ・ファイヤー』(1984)ですとか。
大森:そうですね、あれもネオンの映画ですね。
渡部:夜とネオンと音楽は80年代の流行ですね。少し時代を先駆けていたんですかね。
大森:先駆的なセンスを持つ監督ですよね。他人よりちょっと先に誰もやらなかったことにチャレンジする。その分失敗もしてしまいますが、実験的な要素が強い監督ですよね。
渡部:次は何を見せてくれるだろうと楽しみにしていました。雑誌の記事には、彼の色々な計画が紹介されていましたから。
大森:当時、ハリウッドの頂点にいた映画監督と言ってもいいですかね。
渡部:そう思っていました。日本のCMにも出ていましたよね。
大森:そうですね。サントリーのCMで黒澤明と共演して話題になりましたね。
渡部:フジのカセットテープCMも。最後にカメラ目線をする瞬間がケッサクなんですよ。『ワン・フロム・ザ・ハート』のメイキング映像を見ると、撮影現場にジャン=リュック・ゴダールが来ていますね。ゾエトロープが製作する予定だったゴダールの作品が流れて、スライド制作を手伝っていたとか。
大森:私も今回調べてびっくりしたのですが、 ラウル・ジュリアとテリー・ガーが踊るシーンに、ジーン・ケリーが絡んでるんですよね。
渡部:メイキング映像ではラウル・ジュリアとテリー・ガーにダンスの指示をしていましたね。コッポラは、ゾエトロープをクリエイティブな人々が集まる場にすることを夢見ていましたしね。
大森:音楽の話を少し続けますが、『ワン・フロム・ザ・ハート』のサウンドトラックにはトム・ウェイツとクリスタル・ゲイルが参加しています。トム・ウェイツは今でも知名度が高いと思いますが、他にもドラムのシェリー・マンだったり、ウエストコースト・ジャズの有名なミュージシャンもバックに入ってるんです。そういう意味でも、とても面白いですよね。
渡部:クリスタル・ゲイルはロレッタ・リンの妹でしたっけ?
大森:そうなんです。クリスタル・ゲイルは元々、カントリーシンガーだったんです。1977年に「瞳のささやき」が大ヒットして、人気が出ました。お姉さんのロレッタ・リンは《カントリーの女王様》と呼ばれていて、1980年にロレッタ・リンの半生を描いた『歌え!ロレッタ 愛のために』(1980)という映画が作られました。彼女には兄弟姉妹が8人いたそうで、その内の3人、ロレッタ・リン、クリスタル・ゲイル、ペギー・スーがカントリー3姉妹と呼ばれて、カントリー界では有名な人たちだったんです。ただ当時、トム・ウェイツとクリスタル・ゲイルって正直合わないなと思って、私はちょっとびっくりしました。実際、トム・ウェイツのディープなファンの人は結構批判もしていましたね。ジャズっぽい歌なのにカントリーっぽい節回しだ、クリスタル・ゲイルの歌が軽すぎると。でも改めて資料を読んでいて、トム・ウェイツとクリスタル・ゲイルを、フレデリック・フォレストとテリー・ガーに当てはめて考えると、納得できる気がしました。クリスタル・ゲイルはオールアメリカン的なシンガーと言われていたので、一般的な普通の人の雰囲気、普段着の感じの声はむしろ映画に合っていたのかなと思います。
トム・ウェイツの70年代の作品に「FOREIGN AFFAIRS(邦題: 異国の出来事)」というとても良いアルバムがあります。「FOREIGN AFFAIRS」の中にはベット・ミドラーとトム・ウェイツのデュエット曲「I Never Talk To Strangers」があるんですね。酒場で会った2人が語り合って、恋に落ちてくような曲なのですが、コッポラは「I Never Talk To Strangers」を聴いて「これだ! これを使いたい!」って思ったらしいんです。トム・ウェイツにまずオファーして、ベット・ミドラーにもオファーをしたみたいなのですが、ベット・ミドラーはスケジュールの都合と、自分が主演の映画じゃないと歌いたくないということで、難しかったようです。
渡部:『ローズ』(1979)の後ですものね。
大森:映画界でも既に注目されていたので、やはり厳しかったみたいですね。それでクリスタル・ゲイルになったそうです。でも結果的には映画には彼女の方が合っていたんじゃないかなと思います。
渡部:クリスタル・ゲイルは良かったと思います。テリー・ガーの役にあたるわけですし。
大森:トム・ウェイツは1973年からアサイラム・レーベルで作品を出していました。《ストリートの吟遊詩人》と呼ばれて、日本でも70年代後半頃、一部でとても人気がありましたね。ただ、この頃トム・ウェイツはスランプになっていたそうなんです。そこにコッポラからのオファーがあり、心機一転新しい世界が切り開けるんじゃないかと思い、『ワン・フロム・ザ・ハート』の音楽を引き受けたそうです。
渡部:『ワン・フロム・ザ・ハート』で、トム・ウェイツの新時代が始まった感じがありますね。
大森:そうですね。パートナーのキャサリン・ブレナンとも、この映画を通じて出会ったんです。
渡部:キャサリン・ブレナンがクリスタル・ゲイルを推薦したとか。
大森:そうみたいです。クリスタル・ゲイルはスタンダード・ナンバー「Cry Me a River」も歌っているんですが、それを聞いて、この人でいいんじゃないと推薦したみたいです。 『ワン・フロム・ザ・ハート』はアカデミー編曲・歌曲賞にノミネートされているので、トム・ウェイツにとっても大きな転機になったと思います。
渡部:トム・ウェイツは『アウトサイダー』と『ランブルフィッシュ』(1983)に小さな役で出演もしていますよね。
大森:トム・ウェイツは最初、『パラダイス・アレイ』(1978)というシルヴェスター・スタローン監督・脚本・主演の映画で少し音楽を書いているんです。
渡部:レスラーのお話でしたっけ?
大森:そうです。下町で暮らす兄弟たちの話です。映画に関わりを持つ最初のきっかけは『パラダイス・アレイ』だったそうなんですが、作中全ての曲を手がけるのは『ワン・フロム・ザ・ハート』が初めてでした。
渡部:私財を投じた大作に、初めての人を起用するコッポラもすごいですね。
大森:あまり語られないですが、コッポラの音楽のセンスは並外れてると思います。
渡部:前作の『地獄の黙示録』にしても音楽の使い方が衝撃的でした。
大森:ザ・ドアーズを使ったり。映画と音楽があれほど一体化しているファーストシーンはないと思うくらい、すごいシーンだと思っています。後に『タッカー』でジョー・ジャクソンを使っています。記者会見に行った時にコッポラ本人が、ジョー・ジャクソンは息子がアルバムを聴いていて、いいなと思ってオファーしたと言ってました。
渡部:『ランブルフィッシュ』ではポリスのドラマーだったスチュワート・コープランドを。
大森:すごく良かったです。ちょっと変わった、そこまで大勢の人が知らないミュージシャンの曲をあえて使ってるようなところが、すごくいいですよね。
渡部:俳優に対してもその傾向がありますよね。
大森:ありますね。渡部さんはテリー・ガーがお好きだと聞きましたが、どういうところがお好きなんですか?
渡部:先日亡くなったばかりですよね。大ファンと言われると少しニュアンスが違うんですけど、好きな女優でした。僕がテリー・ガーを好きになったのは『未知との遭遇』(1977)でした。 当時は子どもでしたが、幼い頃は友だちの家に遊びに行く機会が多かったのですが、そこにはたいてい若いお母さんたちがいて、その雰囲気が、この映画の中で若い母親を演じたテリー・ガーの纏っていた生活感と通じるものがありました。古いテレビドラマに出てくる作り物の母親像とは異なる自然さに親近感を抱いたのですが、ごく日常的であることそれ自体が新しかったんですよね。
大森:元々はコメディの人ですよね。
渡部:その個性が効いていたとも思います。元はダンサーで、メル・ブルックスのコメディ『ヤング・フランケンシュタイン』(1974)で成功し、『未知との遭遇』以降はコメディでの妻役や母親役が続きました。『オー!ゴッド』(1977)や『フロリダ・ハチャメチャ・ハイウェイ』(1981)がそうですし、コッポラ製作総指揮の『ワイルド・ブラック/少年の黒い馬』(1979)はコメディではありませんが、ここでも少年の母親役でした。
大森:そういう雰囲気を持っている人ですよね。今回だと『カンバセーション…盗聴…』(1974)にも出てますし、コッポラは結構使ってますよね。
渡部:『カンバセーション』は珍しい役どころですが、とても良かったですね。コッポラ製作総指揮の作品では『マジック・ボーイ』(1982)にも出ていて、ラウル・ジュリアの彼女役。『ワン・フロム・ザ・ハート』に続く共演でした。『トッツィー』(1982)は特に面白かったですし、スコセッシの『アフター・アワーズ』(1985)も忘れてはいけませんよね。
大森:『トッツィー』ではアカデミー助演女優賞にノミネートされてましたね。
渡部:リチャード・ドレイファス主演の『のるかそるか』 (1989)も好きな映画です。
大森:会場の方で、テリー・ガーのファンの方いらっしゃいますか。(会場数名手が挙がる)何人かいらっしゃいますね。素晴らしい。
渡部:若い頃にバレエを習っていたので、エルヴィス・プレスリー主演の『ラスベガス万才』や『パジャマ・パーティ』(ともに1964)では後ろのほうで踊っています。セリフはありませんが、意識して見ているせいか、結構目立っていました。『ワン・フロム・ザ・ハート』の「昔 踊ってたのよ」というセリフは、彼女自身の過去を反映しているのかもしれませんね。それと、テレビの『宇宙大作戦/スタートレック』(1966-69)のエピソード2の最終話(1968)で個性が光っていました。
大森:そういった作品にも出ていたんですね。他に、フレデリック・フォレストもコッポラのお気に入りの俳優ですよね。
渡部:今回の特集、実はフレデリック・フォレスト映画祭でもあるんですよ。フレデリック・フォレストも昨年亡くなっていますが、今年はテリー・ガーの前に、コッポラの妻のエレノア・コッポラも亡くなっていますから、このリバイバル上映は、3人の追悼の意味をももってしまっているわけですね。
大森:そうですね。4本中3本(『カンバセーション…盗聴…』、『ワン・フロム・ザ・ハート』、『ハメット』)、彼は出演してますよね。あまり知られていない俳優ですが。
渡部:コッポラは推していましたよね。
大森:私は一時期結構好きでした。 ベット・ミドラー主演『ローズ』でのフレデリック・フォレストがすごく良くて。
渡部:すごく優しい男の役なんですよね。
大森:軍人の役でアカデミー助演男優賞にもノミネートされましたね。70年代後半から80年代の頭くらいにとても注目されていて、コッポラは『地獄の黙示録』や『カンバセーション…盗聴…』などでも使っていました。
渡部:『ローズ』は80年の日本公開ですね。
大森:ただ、結果的にはあまり伸びなかったですね。
渡部:上手な人なんですけどね。『トラウマ』や『フォーリング・ダウン』(ともに1993)の脇役で出てきたときは嬉しかった。
大森:主役をやるには、地味と言えば地味なんですかね。
渡部:今回の『ハメット』(1982)についても、最初ヴィム・ヴェンダースはサム・シェパードを主演にしたかったらしいですよ。
大森:ぴったりですね。
渡部:シェパード自身が作家ですしね。ただ、フレデリック・フォレストはダシール・ハメットに外見が似ているんですよね。
大森:コートを着た感じが、ダシール・ハメット風ですよね。そういえば渡部さん、今日は貴重なコッポラの本を持ってきてくださったんですよね。
渡部:当時の「キネマ旬報」の特集号で、表紙を飾っています。この年の夏はかなり豪華で、『ブレードランナー』『ポルターガイスト』『炎のランナー』、『ワン・フロム・ザ・ハート』のナスターシャ・キンスキーには『キャット・ピープル』もありました。
大森:私も持ってきました。AFI(アメリカンフィルム協会)が出していたアメリカンフィルムという雑誌です。とてもいい雑誌だったんですが、90年代前半ぐらいに廃刊になって、今はもうないんです。『ワン・フロム・ザ・ハート』のタイトルがちょっと不吉なんですよね。“Coppola Goes for Broke”(訳:「コッポラ破産しちゃうかも」)と書いてあって。ちょっとええ、って思いました。
渡部:『天国の門』でユナイテッド・アーティスツが倒産した事件もありましたし、神経質になっていた時期だと思いますね。
大森:アーティスティックな映画を撮ると、会社が潰れるんじゃないかみたいな。
渡部:恐怖感が。
大森:そういう時代でもありましたよね。
渡部:あとは、キネマ旬報社が出していた「世界の映画作家シリーズ」。この36巻はまるごと一冊コッポラの特集です。
大森:タイトルがすごいですね。
渡部:「コッポラとその映画軍団 70年代ハリウッド映画マフィア群像」。一冊全部コッポラのことが書いてある本は、たぶんこれが最初ですよね。随分何度も読みました。79年の出版で、僕が購入した時点で三刷でした。
大森:今は読む方もいらっしゃらないでしょうけど、とてもいいシリーズでしたね。コッポラファミリーと会ったときのお話もしようと思います。私自身、フランシス、ソフィア、 フランシスのご両親のイタリア、カーマインの4人に直接会ったことがあります。『タッカー』(1988)の記者会見後にフランシスと少しお話したんですけど、その時のエピソードは忘れられないですね。彼のサインが欲しくて、記者会見の後にみんな並んでいたんです。『タッカー』のスチール写真にサインをしていただこうと思って写真を出したら、ペンのインクが切れていて、あまりうまく書けなかったんですよ。私が「それでいいですよ」って言ったら、フランシスが「いや、良くない。ちゃんとしたペンを持ってきてくれれば、もう一回書くから」って言ってくれたんです。それでペンを席に取りに行っている間、待っていてくれました。この人についていきたいと思わせる雰囲気を持っていた人でしたね。気遣いが出来る方で、目から大きな光が出ている人という印象でした。
渡部:外見は強面でも、声は柔らかいですしね。
大森:いかにも巨匠の顔なんですけど、威張った感じは全然なくて。小さなエピソードですが、忘れられないエピソードなんです。
渡部:何年ぐらいの出来事ですか。
大森:80年代後半だったと思います。とてもいい記者会見でしたね。『タッカー』は夢を持つことの大切さを描いていましたが、コッポラ自身も夢に生きてきた監督だと思います。ソフィア・コッポラにはだいぶ後になって会っていました。本当に素敵な方でしたね。特に強烈な印象として残ってるのが、実はフランシスのご両親に会ったときのことなんです。父カーマインは 『アウトサイダー』の「ステイ・ゴールド」の作曲者としても有名です。こう考えてみるとフランシスにソフィアと音楽好きの一家ですね。映画『ナポレオン』(1927/修復版は1981)では、カーマインがオーケストラを作曲していたので、大久保か新大久保にあるリハーサル会場へ取材に行ったんです。そしたら中華料理屋にみんなで行こうという話になって、カーマインと母イタリアを含め、6、7人で円卓を囲みました。
渡部:すごい状況ですね。
大森:ものすごくいっぱい料理が出てきたんですが、ご両親が大声で喋りながら圧倒されるほどガーっと食べていました。イタリア家族のエネルギーってこうなんだな、こういうご両親に育てられたんだなと衝撃的でした。私はその頃若かったので、本当に圧倒されました。それでその後、お父さんはリハーサルに行っちゃったんで、お母さんに「暇なんで相手してください」って言われて、「いいですよ」って言って。フランシスの幼年期の話とか、色々お話しされました。「フランシスと私って、全く歯型が同じなの」とイタリアが言ったのを聞いて、母の大きな愛を感じましたね。それで、先ほど話に出た「コッポラとその映画軍団 70年代ハリウッド映画マフィア群像」をイタリアに見せようと思って、このとき持っていったんです。そしたら、「この本って全部フランシスのことが書いてあるの」ってとても喜んでいて。もう仕方ないと思って、差し上げてしまいました。
──ありがとうございます。実はお時間が来てしまいました。最後に一言ずつお願いします。
渡部:今回の特集の他の作品も全て見てください。特に『カンバセーション…盗聴…』は素晴らしい映画だと思います。ストーリー、演技、撮影、デヴィッド・シャイアの音楽とどこをとってもスタイリッシュな作品です。
大森:傑作ですよね。見て明るい気持ちにはなれないですけど。
渡部:怖い映画ですね。ジーン・ハックマンが、あれほど内省的で暗い人物を演じるのは珍しいかも知れません。
大森:自分が新人だった頃、YAスターと呼ばれたマット・ディロンたちの原稿を書いていたので、『アウトサイダー』は懐かしいです。記者会見に行ったこともあるんですね。『アウトサイダー』のC・トーマス・ハウエルが来ていて、まだ本当に若くて初々しい感じでした。
渡部:まだ10代ですよね。
大森:そうですね。それで1年後に『若き勇者たち』(1984)でも来日したのですが、 1年間の間にものすごい大人びて、スターっぽくなっていて、ハリウッドのマジックを痛感したのを覚えてます。今回、本当に有意義な特集上映だと思うので、ぜひ他の作品も皆さんご覧ください。
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渡部幻(映画批評・編集者)
東京都生まれ。映画批評。『60、70、80、90、ゼロ年代、アメリカ映画100シリーズ』の企画・編集・作品解説。寄稿:パンフ『少年と犬』『ラストムービー』、ムック『南海 別冊 未来惑星ザルドスとジョン・ブアマンの世界』『ルキノ・ヴィスコンティの肖像』『ウィメンズ・ムービー・ブレックファスト』『映画雑誌『南海』5号 特集「ジョナサン・デミの音楽、デイヴィッド・バーンの映像 1980–1989』『特別編集雑誌 80年代アメリカ犯罪映画の世界 特集:クルージング』他への寄稿。。
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大森さわこ(映画評論家・ジャーナリスト)
80年代より映画の評論・取材・翻訳をこなし、多くの海外の監督や俳優にも取材。24年の
著書『ミニシアター再訪(リビジテッド) 都市と映画の物語 1980―2023』(アルテス
・パブリッシング)は<書店員が選ぶノンフィクション大賞>にもノミネート。翻訳書は
『ウディ・オン・アレン』(キネマ旬報社)他。近年、英国でも活動していて、エディン
バラ大学出版局のケン・ラッセルやリンゼイ・アンダーソンの研究書に英文で寄稿。後者
の本は2025年刊行予定。
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