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ハラスメント問題についての見解 -『クリシャ』現状のご報告や「やりがい搾取」について-

アップリンク及びアップリンク取締役社長の浅井隆氏によるパワーハラスメントに対する提訴を受けて、アップリンクで上映を予定していた配給作品『クリシャ』の上映延期を決め、協議のゆくえを見守っておりました(上映延期に至ったハラスメント問題に対するグッチーズの見解はこちらに書いております)。

そしてこの度、2020年10月30日に「アップリンク及びアップリンク取締役社長の浅井隆氏によるパワーハラスメントに対する損害賠償を求めた訴訟について、訴訟外での和解協議が合意に至った」というニュースが流れました。
しかし、原告側からは「円満」に和解したわけでもなく、「全ての問題が解決した」わけでもないという旨のコメントが発表されています。特に【3.提訴後の映画関係者の沈黙と二次的加害について】という文言とともに発表された声明文は、わずかばかりでも映画業界と繋がりがある者として、しっかりと受け止めなくてはならないものだと感じています(原告側の声明文はこちらから全文読むことができます)。

また、11/7には「2020年8月28日に休館したユジク阿佐ヶ谷元スタッフ(有志)によるアカウント」である「元ユジクスタッフの声」さんのツイッターから、「やりがい搾取の犠牲となる人が繰り返し生み出されるという事態にならない為に」という願いのもと、「ユジク阿佐ヶ谷で発生したハラスメントについて」と題された文書によって、一部のハラスメントの具体的な内容などが告発されました。
これらの訴えを受けて、グッチーズとしても可能な限りのリアクションをしなければならないと思い、改めて見解を書きたいと思います。

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映画関係者の沈黙について

性急になにかをコメントすることや明確に立場を表明することだけが、問題に向き合うことではありません。しかし一方で、ハラスメントの訴えに対して映画業界からの声がほとんど聞こえない、沈黙しているという不信も聞こえています。
グッチーズもどのようなコメントを出すべきか、出すならばどのようなものを?と色々な方と相談致しました。そのなかには、「何か言わなければ」ということを優先することで新たに傷つく人もいる、ということを伝えてくれた人もいます。

様々な立場があるかと思います。言いたくても言えない人たちもいらっしゃるはずです(グッチーズはとても言いやすい立場にいることも自覚しております)。ただ、今すぐにでなくとも、願わくは、沈黙を守っている映画業界の方々も然るべきタイミングで、ハラスメント問題についての見解を語り出してもらえればと思っております。そのためには語りやすい環境や場を作ることも大切です。今回の文章がその一助となれば幸いです。

例えば、グッチーズは『クリシャ』の上映を延期しましたが、上映をし続けるという立場も当然あるかと思います。現に多くの映画やイベントが開催され続けています。そこには、ハラスメントを許さないこととアップリンクさんで上映をすること、イベントをすること等を両立させる考えや思いがあるでしょう。その考え、思いをぜひ聞かせてほしいです。

それは様々な側面からハラスメントを考えていくことに繋がるはずです。そこで交わされる言葉は、割り切れなかったり引き裂かれたものかもしれません。そして語れば語るほどに「正しい判断」がわからなくなるかもしれません(『クリシャ』の上映延期も正しい判断だったのか……様々な捉え方があるかと思います)。しかし、わからないからといって問題自体をなかったことのように口をつぐんだままやり過ごすより、正しさに至らぬ言葉でも、問題について語ることの方がよほど大切でしょう。また、ある見解がたとえ自分の考えと異なるものであったとしても、それらを聞き入れ、考えを新たにし続けることが、今後のハラスメントの被害をなくすことに少なからず貢献することだと信じています。

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『クリシャ』の公開について

さて、まずは『クリシャ』公開についてですが、アップリンクさんが公式に出されたコメントと原告側が発表した声明文を拝読した結果、まだアップリンクさんと上映をご一緒できる状況ではないと判断せざるを得ませんでした。
浅井氏やアップリンクさんのことが信用できないと原告側はコメントしています。そのうえで、信じる信じない、変わる変わらないに関係なく、構造としてハラスメントが起きにくい体制、もし起こったとしてもすぐに声を上げられる体制を整えることを条件に出し、アップリンクさんはそれに合意したという理解をしております。

グッチーズとしては、まずはアップリンクさんにそれらの約束をきちんと果たしていただきたいと思います。そこがスタートラインであり、まずはスタートラインに立っていただき、そこからさらなる健全な労働環境へ向けての改善、ハラスメントが今後起きないための環境作りへと取り組まれる暁には、グッチーズとしてもできるかぎりの協力・応援をしたいと思っております。
とはいうものの、社内の改革は外側では見えづらいこともあり、一体何がどの程度進められているのかわかりません。言えることと言えないことがあるかと思いますが、ぜひ労働環境の改善へ動き出していることを外側からでも見える形でどうにか伝えて欲しいと願っております。

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「やりがい搾取」について

アップリンクさん、そしてユジク阿佐ヶ谷さんでのハラスメント問題において「やりがい搾取」という言葉が頻繁に発せられました。
当たり前のことですが、映画への情熱を人質に取るような言動は大変卑怯なものです。また、そうした労働環境は決して容認できるものではありません。しかし別の視点からみると、公的な支援もないなかでは、働いている人の情熱を頼りにしなければ運営が成り立たないというミニシアター業界のシビアな現状も浮かび上がってきます。

「やりがい搾取」のうえにしか成り立たない業界など元から成立してないのだから潰れてしまえ、という考え方もあるでしょう。また、潰れてしまうのが嫌ならば「やりがい搾取」に耐えられる人たちに支えてもらうしかないのでしょうか。私はどちらの立場も取りたくありません。そうであるならば、「やりがい搾取」ではない形で割に合わないけれども(情熱ややりがいをモチベーションに)活動する。これしかありません(いいすぎました。他にもあるとは思います)。

「やりがい搾取」ではない形で情熱をそそぐ活動は、インディペンデントとも呼ばれるかもしれません。ただ、情熱やらやりがいやらという言葉は少し暑苦しい……ようは、それぞれが自身の赴くままに(金銭的に割りはあわないけどその分)楽しくやりたいように活動する。そういったインディペンデントの活動が映画を支える一つの力になると考えます。歴史的に言ってもそうだろうと思いますが……どうでしょう、正確にはわかりませんが。そもそも、他人や会社から強要された情熱やらやりがいなどというもので、なにかが支えられますか。いや、別に業界を救おうとインディペンデントな活動しているわけではないですが、支えの一部になれたらとても良いです。

例えば、今まで100本の小さな映画をすくい上げる犠牲に「やりがい搾取」が横行していたならば、「やりがい搾取」をせずにクリーンな環境のもと小さい映画を50本扱ってください。そうして残りの50本をインディペンデントの活動ですくい上げればいい。
それは不可能な話でしょうか。
仲間たち、先輩たち(本当はメイトと呼びたいです※1)にはそうした活動をしてる尊敬できる人たちがたくさんいます。そして私の知らないところでも痺れる活動をしている方々はいるでしょう。今回のハラスメントで被害を受けた方も、小さな映画を私たちに届けてくれるメイトたちです。そうして作り上げる映画環境は今までの形ではないかもしれないし、長い時間がかかるかもしれないけれど、「やりがい搾取」によって映画を見せてもらっている状況よりよっぽどマシだと感じます。

インディペンデントな活動の、その一つ一つを大きくするのは難しいでしょう(大きくしてしまうとそれこそ今回のアップリンクさんの問題のようなことが起きるのだと思います)。しかし、一つ一つは小さくても、たくさんの活動によって総体的に大きくなればいい。もちろん企業とインディペンデントの活動をことさら分ける必要はありませんし、会社や企業だからこそ支えられる映画文化もある。
無駄な垣根なく、会社とインディペンデントが存分に組み合えばいいと思います。それこそが業界を豊かにすることだと考えますし、「やりがい搾取」のうえにしか成り立たない業界を変えるならば、根本的には業界自体を豊かにするしかないでしょう。その方策の一つとしてグッチーズはインディペンデントの活動と劇場さんたちとの連帯の力を信じます。
大それたことだと思いつつ、グッチーズは、こうしたインディペンデントな活動がより広まるように貢献したいと思っていますし、「楽しそうだから自主上映やら自主配給やら自主宣伝やらしてみようかな。パッケージもやってみようかな。配信もしてみたいし、パンフレットも作ろう。あとついでに儲けたいな」と思ってくれる人が多く出てくるような活動をいい感じにしていきたいと思います。

今までご一緒してくださった劇場さんや上映団体の皆様、そしてこれからご一緒してくださるみなさま、どうぞよろしくお願い致します。

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恥ずかしながら理念のようなもの長々と書いてしまいました。理念の肥大化が、まさに「やりがい搾取」を誘発する要因の一つになっていると考えると、もっともっと現実的な術こそが必要かもしれません。労務に関する知識やハラスメントに対する認識、声の上げ方、拾い上げ方などを勉強し、身に付けることも大事なことだと思います。両方やれたらいいですし、やらなければいけません。

最後に、『クリシャ』を楽しみにしてくださっている皆様にはご迷惑をお掛けしており、大変申し訳ございません。映画を出さないことは、観客から映画を見る機会を奪っていることでもあるとは重々認識しております。また、たとえ数年前の映画でも配給権を取得したのだから、映画をきちんと公開する責任は負わなくてはいけません。現在、なるべくいい形で上映の機会を設けたいと模索している最中でございます。今しばらくお待ちいただければ幸いです。

グッチーズ・フリースクール


※1「メイトってなんでしょうか?」というご指摘をいただいたので、追記したいと思います。
メイトと呼びたい理由は、仲間と書いてしまうと、仲間とそれ以外、友と敵のような党派性や身内感が強く出てしまうと感じており、違う言い方ができればよいなと思っているからです。クラスメイトやルームメイトのように、たまたま一緒になっているような、それぞれバラバラな思いや考えでありながら、全体として一緒でもある関係性。あなたも映画が好きですか。実は私も好きなんです。私たちはメイト(仲間)ですね。というような関係性のことを指したいと思ったからです。(2020年11月11日追記)

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Killer of Sheep

スラム街に暮らす黒人たちの暮らしを鮮やかに描き、望まれながらも長らく劇場公開されなかった、黒人監督チャールズ・バーネットによる幻の傑作。 1970年代中頃、ロサンゼルスにあるワッツ地区。黒人たちが住むそのスラム街で、スタンは妻と息子、娘の4人で暮らしている。スタンは羊などの屠処理の仕事をし、一家は裕福ではなくても、それほど貧しくはない生活を送っていた。しかし仕事に励むなかで、日に日にスタンの精神は暗く落ち込み、眠れない日を送るなかで妻への愛情を表すこともしなくなっていた。 子供たちが無邪気に遊びまわっている街は、一方で物騒な犯罪が起き、スタンの周りの知人友人にも小さなトラブルは絶えない。 そんななか、家の車が故障したため知人からエンジンを買おうと出掛けるスタン。しかしエンジンを手に入れたスタンは、その直後思わぬ事態に見舞われるのであった……。

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