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「写宅部!」(プレミア映写を宅でする部)7日目

さっそくですが、アンディ・フィックマンをご存知でしょうか? 彼の監督作品は、前回少し言及したドウェイン・ジョンソン主演の、アドヴェンチャー映画『ウィッチマウンテン/地図から消された山』しか劇場公開していないのであまり聞いたことがないかもしれません。このアンディ・フィックマンは、実はコメディ映画を得意とする監督で、それはそれはナイスなコメディ映画を撮る監督なんです。『アメリカン・ピーチパイ』という長編デビュー作は、アメパイシリーズ(『アメリカン・パイ』シリーズ)っぽいタイトルがついているけれども、まったくアメパイとは関係のない男装サッカーコメディです。そう男装といえば、シェイクスピアの「十二夜」です。

『アメリカン・ピーチパイ』というコメディ映画は、なんとシェイクスピアの「十二夜」からインスパイアされたというシビれる作品なんです(マジです)。

 

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(⇧ロマンティックで、ごめんなさい!!!! 未読の方は例えば愉快軽妙な松岡和子氏の翻訳でどうぞ)

アンディ・フィックマンは他にも最近では『かぞくモメはじめました』という傑作コメディ映画も撮っています。タイトルだけでなんともたまらない気持ちになる映画です。困っているようにも、若干喜んでいるようにも読めますね。なんだこの現状報告っぽいタイトルは。最高ですね。

この邦題は完全に『かぞくはじめました』(キャサリン・ハイグル主演の映画)の捩りでつけられているけど、はっきりいって本家(?)よりも何倍も面白く、見事ジャイアント・キリングを果たした映画として2010年代コメディ映画界の一部では知られている作品です。

 

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(⇧左が偽物、右が本家。といっても原題は全然違います)

そんなアンディ・フィックマンの新作がまたもや劇場未公開のままDVDスルーになっていたので、第7日目の部活動を始めよう。

今回DVDスルーになってしまった映画は、その名も『モール・コップ ラスベガスも俺が守る!』です。

“ラスベガスも”って「ほかにお前なにかを守ったのかよ」、という疑念がふつふつ沸いてくるところがgoodです。この映画、実は続編なんですね。以前、『モール★コップ』という映画があり、そこではラスベガスではなく、ショッピング・モールを守っていたんです。お気づきの通り、タイトルの“★”が“・”になってます。素直に『モール★コップ2』とすればわかりやすいのに、「2」をつけずに、ヘンな副題をつけてます。しかし、この“ラスベガスも”の“も”に“2”の意味合いを持たせようとしているところが、なんともニクい。そうお感じにはなりませんか?
ちなみに第一作目の『モール★コップ』はスティーブ・カー監督という人の作品です。彼も日本では劇場公開全然されていないのが悲しい(最近では2010年代もっとも素晴しい映画の一つ『ムービー43』が公開された作品)。笑える映画をきちんと撮れる監督なので、まずはソフト化はされている『チャーリーと14人のキッズ 』あたりを見てみるのをおすすめします。

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(⇧『チャーリー』には幼いときのエル・ファニングが出てることで少し有名です!)

さて、このモール・コップですが、一つ特徴があります。それはコップ=警察官と思いがちですが、この映画に描かれるコップとは警備員のことである、ということです。ご存知の通り、警察官は「警察官職務執行法」という法律に基づき色んな権限が与えられていますが、警備員には「警備業法」という法律で何の権限も与えられていないことに留意するように定められています(⇦Yahoo!知恵袋からそのまま引っぱってきました)。
「警備業法」を詳しくは知りたい方はこちらを参照して欲しいのですが、詳しく知りたいわけでもない方もチラ見していただきたいです。というか以下に少し引用します。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

第二条  この法律において「警備業務」とは、次の各号のいずれかに該当する業務であつて、他人の需要に応じて行うものをいう。
一  事務所、住宅、興行場、駐車場、遊園地等(以下「警備業務対象施設」という。)における盗難等の事故の発生を警戒し、防止する業務
二  人若しくは車両の雑踏する場所又はこれらの通行に危険のある場所における負傷等の事故の発生を警戒し、防止する業務
三  運搬中の現金、貴金属、美術品等に係る盗難等の事故の発生を警戒し、防止する業務
四  人の身体に対する危害の発生を、その身辺において警戒し、防止する業務

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

赤字に注目していただきたい。「警戒し、防止する業務」「警戒し、防止する業務」「警戒し、防止する業務」「警戒し、防止する業務」。

4つ中4つに「警戒し、防止する業務」と記されています。多いぞ、多いぞ〜。このことが如実に表しているように、ずばり警備員とはひたすら警戒し、防止する人なのです。防止出来なかったら、あとは警察に任せるしかないんです。そしてだから優秀な警備員とは、未然に防止出来る人のことを言います。

ここで「優秀さ」について考えてみましょう。

警察は事件が起きて解決出来れば優秀とスゴくわかりやすいですが、警備員は事件が起きた時点で優秀じゃないのです。なにもない平穏な日々が維持出来れば優秀ということになります。

あなたのよく使うショッピングモール、そこはいつも平和です。それは、警備員が優秀なのか、単に平和なだけなのか、あなたは判断出来ますか? これはおそらく野球でいう外野手みたいなものです。優秀な外野手は、打球が飛んでくる位置などを未然に察知し動いています。素人目にはいつも打球が都合の良いところに飛んできてラッキーなだけだと見えてしまいがちですが、実は違うというアレです。バッターのクセや試合状況や、はたまた天候や風向きなど、なんだかんだを考えて、事前に動いているのです。あだち充先生の漫画とかに描かれているアレです。なんとわかりにくく、玄人好みなポジションです。

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(⇧優秀な外野手うんぬんの話は『H2』にあった気がします……たぶん)

いまのは野球観戦でのお話ですが、わたしが言いたいのは、野球観戦の楽しみ方ではもちろんありません。何が言いたいのか。それは、警備員とは、なんて映画に不向きな職業なんだ、ということです。だって事件起きちゃいけないんだもの。いや、野球映画でしたら、「またあの外野手のとこに飛んでいってる。 ラッキーだなあ」「節穴か、お前の目は」「なに! あの外野手、打者が撃つ前に巧みにポジショニングしている!」「そういうことだ」的なシーンが1つあれば、「これがプロフェッショナルかあ」、と“アリ”ですが(まあ本当にそんな会話している映画があったらたらそこで見るのやめますが)、警備員でやるには厳しいかと思います。

「いつも平和 だなあ」「節穴か、お前の目は」「なに! あの警備員、人が万引きする前に巧みにポジショニングしている」なんて映画、俺は見たくないよ。というか警備員を観察してるヤツは誰なんだよ。

そいつがあぶねぇだろ。

 

では、警備員を主人公にすえてしまった『モール★コップ』は、そのあたりどう解決しているのでしょうか。それは実際に映画を見て、確認していただきたいのでここでは申し上げません。しかし、もちろん、この「警備員」と「警察」の違いがこの映画のキモに、つまりは笑いになっていることでしょう(ちなみに上記の「警備業法」は日本のものだが、アメリカも警備員と警察に権利上大きな違いがあるのは同じはずです)。

ということで、『モール★コップ』では、事件が起きた時点で役割が終わるはずの警備員が頑張る映画であり、『モール・コップ ラスベガスも俺が守る!』はその警備員がラスベガスで頑張る映画です。シンプルです。

他にも、警備員ネタとして、拳銃を持てない警備員ならではの“殺せない”武器が色々と出てきたり、警備員における最大の乗り物“セグウェイ”がパワーアップしていたり、『モール・コップ ラスベガスも俺が守る!』に出てくる警備員は太ってたりおじいちゃんだったり(なんでこの映画の警備員はみんな太っていて、年寄りなのでしょう)、みんな基本動けなさそうだったりと(でも実際すごい動けて、往年のジャッキー・チェン映画を見ているような幸福を味わえるシーンがあります)見所があって大いに笑えます。初笑いにもってこいなのです。

 

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(⇧上:これが警備員の体型だ! 下:これがパワーアップした最新型セグウェイだ!)

といっても、一作目と同じく「警備員ネタ」で頑張ってみたところで、バリエーションが変わっただけで、結局それは同じ話にすぎない。今回は続編なんだ。同じことは出来ない。そんな『モール・コップ ラスベガスも俺が守る!』は、とても“警備員というものの映画にならなさ”に意識的です。そのあたり正しい続編のあり方といえるでしょう。『モール★コップ』で描かれた警備員をもう一度描くなんてダメだよね、という意識です。

さて、ではそのような意識がありながら、続編を作るにはどうしたらいいか。

そこで『モール・コップ ラスベガスも俺が守る!』は、極めてかしこい設定を持ち込みます。それは主人公の警備員を“職務を越えて活躍した人”として伝説にして、讃えてしまうことです。

いや、ダメなんだよ職務を越えて活躍しちゃあ〜。あっちゃ〜。

いや、本当に一番ダメなんですよ、警備員が、職務を越えちゃ。職務を越えないための法律まであって、4つ中4つものに「警戒し、防止する業務」と執拗に書いてあるわけです。

まずはその“職務を越えて活躍した人”に対する讃えっぷりはセリフとして現れます。「ブラック・フライデーは今も伝説よ」という開始5分で出てくるセリフがそれです(ブラックフライデーを控えたショッピング・モールで事件が起こり、解決したのが『モール★コップ』なんです。ちなみにブラックフライデーとは伝統的に一年で買い物が最も行われるクリスマス商戦(ホリデーシーズン)の開始の日です)。

 

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(⇧これがブラックフライデーです。この日は盗難が多発するらしいゾ)

讃えちゃったよ、あっちゃ〜です。ここでニヤリとしてしまったら。もうこの映画に引き込まれてしまっています。こういったテーマ(警備員)に結びついた笑いの演出をアンディ・フィックマンは巧みにやってくれるんですが、しかし彼の真骨頂は実は他にあります。

それはアツい思いや悲しい過去、深刻な悩みなど、当の本人やそれを取り囲む人にとっては重要な出来事に対する、距離感の演出です。彼は、このバランス感覚が抜群です。

それがよく表れている、この映画の驚くべき感動的なシーンを見てみましょう。コメディなのにね。“職務を越えて活躍した人”として主人公のポールが大勢の警備員の前でスピーチするシーンです。

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(⇧『モール・コップ ラスベガスも俺が守る!』のスピーチシーン)

 

今夜 過去の名警備官たちとこの場に立てて光栄です。

彼らの顔を見ているとある問いが頭に浮かびます。

“なぜ この仕事を?”と。

普段 僕らの仕事に対して感謝してくれる人はゼロだ。

それどころか バカにもされる。

そう 僕らは嘲笑の的だ。

“太っちょ”とか“ガリガリ”とか“デカ腹”とか“ニキビ面”と呼ばれる。

僕らの共通点は何か?

小説家のコンラッドは ぶ厚い本の中で こう述べた。

“人生は夢を見るのと同じ”

“孤独だ”と。

 

なぜ警備をやるかって? 僕は笑うしかない。

なぜなら 選択肢などないからだ。

僕は警備を選んだんじゃない。

警備が僕を選んだ!

毎朝 きついズボンに足を片方ずつ通し 靴を履く時

僕は こう胸に誓う。

“今日 誰かを助けろ”(※⇦ここでほぼ確実に視聴者はウルっときます)

人を助けるなんて簡単そうだ。

だが警備の仕事は誰にでもできるのか?

ある種の資質が必要だ。

スパイダーマンのごとく危機を察知する力が。

僕らは職業柄いろんな人と出会う。

万引き犯に スリに 無料サービスにたかる客

マッサージチェアで昼寝する輩

駐車場Fに車が見つからないという老夫婦は……

車すら持ってない

駐車場Fもない

Dまでしかないからね。

そんな時 僕らはふと思う “何のために……”

“この仕事を?”と。

 

すると 小さな男の子が袖を引っ張ってきて……

涙目で言う

“ねえ おじちゃん”

“ママがいないの”(※⇦再びウルっときます)

だから やるんだ。

最後に言いたい。

自分のためだけに 人生を生きるなら

生きる目的がない。

今日 誰かを助けよう!

 

感動した。スピーチを聞いてる聴衆の顔も良いんです。アンディ・フィックマンは丁寧に、聞いている人の顔を抜いてるね。なるほど、聴衆の彼らも、こういう思いを抱きながら生きているのだ、というのを思わせて、胸に来るじゃないですか。全然ふざけてないんですよ、良いシーンなんだ。素晴しいスピーチです。

ただね、一人、寝てるヤツいるんだよ!

名スピーチのあいだ、素晴しいタイミングで寝てる人を抜いてくるんですよ。

声出して笑いました。

どこでその寝顔が入るか、上のセリフを読んでみてお分かりになったでしょうか?

それを確かめるだけでも見る価値あると思います。これまた、すごい良い顔してるんだ。寝顔が。気持ち良さそうなんだ。その寝顔を見てしまったら、僕たちはもうこの映画の虜さ。

てか、そもそもコンラッドの「闇の奥」もそんなに分厚くないからね。よく考えたら。というか、どちらかというと薄いからね。岩波文庫で227ページだからね。

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(⇧We live, as we dreamalone.っていうのは「闇の奥」ですよね)

こういうアツい思いや悲しい過去、深刻な悩みなど、当の本人やそれを取り囲む人にとっては重要な出来事に、まったく興味を示してなかったり、完全に上っ面しか見てなくてテキトーなこと言ったり、つまり全く世界を異にする人々を決定的な箇所で介入させて、豊かすぎる笑いにするコメディ映画っていうのが時々あって、例えば『2番目のキス』の最後、ドリュー・バリモアが野球のグラウンドに入ってダッシュをキメるところの、実況中継とかね。あとは『ふたりにクギづけ』の腰のところで繋がった結合双生児のボブとウォルトを見て、すごい楽しそうに「わあ! クールね!」って言うお姉ちゃんとかね、アレらは最高ですよ。

ふたりに

(⇧ともにファレリー兄弟の監督作品です)

最良のファレリー兄弟はこういうシーンが絶対に入っていたのですが、ということはファレリー兄弟の衣鉢を継ぐのは実はアンディ・フィックマンなのではないでしょうか。

ということで今日のところは終わります。

(text:satoshifuruya

 

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Killer of Sheep

スラム街に暮らす黒人たちの暮らしを鮮やかに描き、望まれながらも長らく劇場公開されなかった、黒人監督チャールズ・バーネットによる幻の傑作。 1970年代中頃、ロサンゼルスにあるワッツ地区。黒人たちが住むそのスラム街で、スタンは妻と息子、娘の4人で暮らしている。スタンは羊などの屠処理の仕事をし、一家は裕福ではなくても、それほど貧しくはない生活を送っていた。しかし仕事に励むなかで、日に日にスタンの精神は暗く落ち込み、眠れない日を送るなかで妻への愛情を表すこともしなくなっていた。 子供たちが無邪気に遊びまわっている街は、一方で物騒な犯罪が起き、スタンの周りの知人友人にも小さなトラブルは絶えない。 そんななか、家の車が故障したため知人からエンジンを買おうと出掛けるスタン。しかしエンジンを手に入れたスタンは、その直後思わぬ事態に見舞われるのであった……。

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