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「文芸部」活動日誌vol.4(映画、音楽、本などのコラム)

<青の物語>

こんにちは。
『タイニー・ファニチャー』上映中ですね。
何かと友達と話したくなる映画ですね。
ちなみにわたしはあんまりノレなかった派ですが、
誰かのパーソナルな物語ってふとした時に元気付けられることがあると思います。
わたしは元気ない時に、映画のどうってことないワンシーンとか観てて、(あるいは小説の一文とか)「あ、もう自分は大丈夫だ。そんな予感がする」みたいなこと、よくあります。
うまく説明できないですけど。
元気ない人におすすめの映画です。

てなわけで本題に……

8月ももうすぐ終わりですが蒸し暑い日が続きますね。
涼しげなものをご紹介したいと思います。

ブルー・ウィローってご存知でしょうか。
食器のクラシカルなパターンのことなのですが、個人的にブームが来ていて、
少し前に模写をしました。

18~19世紀イギリスで流行した食器の模様で、当時中国由来の山水図柄を描いた食器を持つことが
ステータスとされていました。繊細なパターンの食器を作る技術も出回り、上流階級の間で親しまれました。

今でもブルー・ウィローにはファンが多く、その理由は絵に込められた物語にあります。
中国が舞台の、身分違いの悲恋物語です。

高官の娘とその高官の秘書である青年は恋に落ちたが、身分の違う恋に娘の父に反対され逃亡。
追っ手に見つかり父に殺され、(あるいは入水自殺か、そのあたり諸説あるようです。)
二人は、鳥に生まれ変わり結ばれた。

この一連の物語が、ミニアチュールな一枚絵に、食器になって描かれて
(お決まりのモチーフ=二羽の鳥、柳、楼閣、舟、橋の上の三人……)います。
このお話は中国のそれっぽいモチーフを組み合わせた、当時のイギリス人による創作みたいですね。

ブルー・ウィローとはその名の通り、青い柳のことです。
青はエレガントですが、悲しい色でもあります。

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そして、つい最近観た映画でたまたまこの食器が出て来ました。

シアーシャ・ローナン主演の『追想』です。
もうご覧になりましたか?
本の映像化の作品ではかなりかなり優秀なのでは!
と思ったら脚本を原作者のイアン・マキューアン自身が書いているのですね。

以下ネタバレあります。

1962年イギリス。来るべき自由な、若者の時代を前に、
趣味・家庭環境の違う、だけど愛し合う二人、
フローレンスとエドワードは結婚し初夜を迎え、
その一晩の出来事をきっかけに人生は大きく変わる。
心の深層は明らかになる。

海辺で、フローレンスは本当の気持ちを告白をし、とある提案をするが、
エドワードには受け入れられなかった。
それが契機となって結局二人の関係は破綻に終わってしまう。
重要な点は、それは時代が招いたかもしれないということ。

時代が巡り、人々の考え方も変わる。古い様式は解体していく。
そう、例えば1975年に彼女の提案を聞いていたら?
エドワードが当時のことを追想し、フローレンスの提案は
深い愛ゆえだったことを知る…。

結婚式の準備が着々と進む中、神父がフローレンスの浮かない顔を見て、
今ならまだ取りやめることができる、と話すシーン。
フローレンスは戸惑いを隠せず立ち去ろうとすると
その場にある食器(ブルー・ウィロー)を割ってしまう。

クラス(階級)の違う二人はそのままブルー・ウィローの悲恋と重なる。
(海辺でフローレンスは、エドワードが教えてくれた鳥の鳴き声を聞き分けることができない。)
二人の関係の破綻を予感した時にブルー・ウィローは割られるが、
それは新しい時代が始まることのサインだったのかもしれない。

フローレンスのブルーのファッション、エドワードの好きなブルース、そして曇り空の海…。
シネマスコープ万歳、なラストシーンも必見です。
(以下予告編で、件のシーン少し見られます。)

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表題とした、「青の物語」(※)はマルグリット・ユルスナール の作品からとりました。
どこまでも青く、幻想的な短編。

「青の物語」含む、ユルスナール 初期の三編から成る同名の『青の物語』には、湖のほとりに新婚旅行に出かけた男女の物語、「初めての夜」が収録されています。
男は女との未来を、あたかも過去を追想するかのように想像し、そして差し挟まれる、他の女との思い出から女性一般について思い巡らしているようです。

“彼は心の中で、これまでも度々、他の女の傍らで自分に言って聞かせていたことをつぶやいた➖私たちの人生の大部分の時間は、未来あるいは過去が影を投げさえしなければすばらしいものなのであり、普通私たちが不幸になるのは思い出か、さもなくば予感によってのみなのだ、と。”
(「初めての夜」吉田加南子 訳)

こちらも映画『追想』(原作本の邦題は「初夜」)と響き合うかのような物語。
合わせてぜひぜひ。


※絶版です。古本屋か図書館にあります。

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Killer of Sheep

スラム街に暮らす黒人たちの暮らしを鮮やかに描き、望まれながらも長らく劇場公開されなかった、黒人監督チャールズ・バーネットによる幻の傑作。 1970年代中頃、ロサンゼルスにあるワッツ地区。黒人たちが住むそのスラム街で、スタンは妻と息子、娘の4人で暮らしている。スタンは羊などの屠処理の仕事をし、一家は裕福ではなくても、それほど貧しくはない生活を送っていた。しかし仕事に励むなかで、日に日にスタンの精神は暗く落ち込み、眠れない日を送るなかで妻への愛情を表すこともしなくなっていた。 子供たちが無邪気に遊びまわっている街は、一方で物騒な犯罪が起き、スタンの周りの知人友人にも小さなトラブルは絶えない。 そんななか、家の車が故障したため知人からエンジンを買おうと出掛けるスタン。しかしエンジンを手に入れたスタンは、その直後思わぬ事態に見舞われるのであった……。

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