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やりがい搾取、ハラスメントについての見解を改めて

2022年4月30日に、シマフィルム株式会社/出町座より「出町座の労務状況についてのご報告」が発信されました。

弊団体(グッチーズ・フリースクール)としては、ケリー・ライカート作品をシマフィルムさんと共同配給をしている立場もあり、「シマフィルム経営の立誠シネマおよび出町座の労務問題」が明るみになった2021年9月から、過去、そして現従業員の方々への納得のいく対応と労働環境の改善をお願いしておりました。
「出町座の労務状況についてのご報告」が発信されました今、告発を受けてから今までに、ともに同じ映画を配給している立場として行ったこと、考えたこと、そして改めてハラスメント、搾取に対するスタンスを表明することにいくばくかの意味があるのではないかと考え、今回の文章を書いております。
結論から言いますと、具体的に改善に向けて、何もできなかったことについての反省になるかと思います。しかしその何も出来なかったことを共有することが、少しでも今後の映画業界を良くすることに繋がればと思います。

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1.シマフィルムの「出町座の労務状況についてのご報告」について

現在の出町座さんは専門家も交えて労働環境の改善とハラスメント防止へ取り組まれており、未払いの精算を済まされた旨の発信をされております。弊団体としては、今後も引き続き、これらの取り組みを続けていただき、一層の環境改善に努めてくださることを期待しております。そして特設窓口も2022年5月末まで開設されているとのことですので、今後も補償等を求める声があった際には、誠実にご対応してくださることもお願いしております。
一方で(現在はきちんと対応が出来る体制を整えられているとのことですが)、「出町座の労務状況についてのご報告」にも記載されている通り、問合せに対応ができない時期、状況もあったようです。様々な事情があったにせよ、こうした行いによって、映画業界の労働改善を願う人々の信頼を落としてしまうのは、とても残念でなりません。失われたものはもう戻ってこないかもしれませんが、労働環境の改善、従業員の方への適切な補償等はもちろんのこと、信頼回復に向けてもぜひ力を尽くして欲しいと思っております。

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2.ケリー・ライカート共同配給の対応について

ここからは共同配給者として考えたことや行ったことなどを可能な範囲で具体的に記しながら、その反省していきたいと思います。

以前、2021年10月5日にシマフィルムの志摩代表および現場責任者の田中氏名義による文書が発表されたことを受けて書いた「やりがい搾取とケリー・ライカートの共同配給について」でも触れましたが、適切ではない労働環境で従事している出町座さんの従業員がおり、労働環境の改善も補償もまだ道半ばである状況で、果たしてライカート作品を配給し続けてよいのかという悩みがあり、関係者や信頼のできる知人たちと話し合いもしてきました。
ライカート作品の共同配給にあたって、出町座(シマフィルム)さんの貢献は極めて大きく、実質的な配給業務の多くを担っていただいておりました(おります)。そのため、ライカートの劇場配給を切り上げ、配給事業にかかる労力を出町座さんの労働環境の改善や従業員の方々への補償へ回して欲しい、と考え、お伝えもしてきました。

この時点で、すでに多くの劇場で上映、あるいはその準備は済んでおり(そのため、劇場配給を切り上げたとしても興行として大きなマイナスはなかった状況でした)、実際には配給業務の負担は相当減っていたかもしれません。しかし、なによりも働いている方々を優先すべきと考えた際に、配給切り上げの考えが出てきた次第です。
一方で、ライカート作品は(あくまで弊団体から見てですが)予想以上の好成績をあげていたこともあり、今以上に少しでも成績をあげて潤うことが、労働環境の改善、ひいては映画業界の改善に繋がるのではないかという意見もありました。いち配給作品の興行では微々たるものではありますが、たしかに映画をヒットさせる、興行面で盛り上げていくことはとても大切なことだと日々感じております。また配給切り上げることに関しては、映画を上映することについての配給元の責任についても考えさせられます。

答えの出ない問題でしたが、結論としては「現状決まっている上映に関してはそのまま行う。それ以降は、劇場さんからお声をいただいた場合には提供する。しかし、これ以上の展開はすべて白紙にして、積極的に配給活動を行うことを控える」というものになりました。
この判断が正しかったのか、そしてどれほどの意味があったのかはわかりません。実感としては、何もしていないのとほとんど変わらなかったように思いますし、「一応の決断はした」という単に自己を満足させるものに過ぎなかったかもしれません。
そもそも、弊団体がすべてを配給業務をすべて引き継ぐ体力と能力があればよかったのですが、残念ながらあらゆる点で至りませんでした。そして積極的に配給活動を差し控えることになったにもかかわらず、以降も変わらず出町座さんには労力をかけ続けることにもなりました。

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3.グッチーズからシマフィルムへの働きかけについて

配給をどうするかという問題とは別の観点になりますが、弊団体に出町座での労務環境の現状の調査や追及についてより積極的な介入を求める声もいただきました。こちらも結論として、弊団体は出町座(シマフィルム)さんに誠意ある対応をお願いし、言葉で働きかける以上のことは出来ませんでした。
そもそも弊団体にお願い以上のことをする権利がないという考えに加えて、労働環境やハラスメントの実態を調査、追求する能力も、責任を持って介入することができる自信もありません。もちろん特定の加害者を罰することも出来ませんし、専門家でもなければ当事者でもない者がやるべきではないと思います。しかし、これにもやはり「お願い」をするばかりで、実際にはなにもしない、出来ないもどかしさや具合の悪さも感じていたことは事実です。

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4.今後のグッチーズの取り組みについて

それでは、弊団体として労働問題やハラスメントに関する告発や訴えに出来ること、取るべき対応はなんでしょうか。それは被害者の訴えに耳を傾けること、加害側へは訴えの声に対して誠実に応えるよう厳しい態度で接すること、そして労働搾取やハラスメントが起きてしまう構造や慣習を批判し、それらをできる限り改善していくことだと考えています。
グッチーズはこれから差別や搾取、ハラスメントをテーマにした映画を上映、配給することもありますし、逆に実際に過失や加害のある人物が関わった映画を公開することもあり得ます。
しかし、いかなる場合でも(二次加害を起こさないことは大前提として)、悪き構造や慣習の改善に少しでも繋げることを念頭に置き、そのように活動していきたいと思っております。もちろん弊団体自身も、これまでこのような悪き構造や慣習に加担してきた可能性や見過ごしてきたことを自覚、反省し、これから同じような問題を起こさないよう常に心がけて取り組んでいく所存です。
その一環(かつ戒め)として、この文章も書いてきたつもりです。そしてこうした反省の共有や発信が、ほんの少しでも、労働問題やハラスメントに対して様々な立場の人々が意見や考えを出し合い、必要な声明を出すきっかけになり、風通しのよい、よりよい映画業界つくりに貢献できれば幸いです。

グッチーズ・フリースクール

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Killer of Sheep

スラム街に暮らす黒人たちの暮らしを鮮やかに描き、望まれながらも長らく劇場公開されなかった、黒人監督チャールズ・バーネットによる幻の傑作。 1970年代中頃、ロサンゼルスにあるワッツ地区。黒人たちが住むそのスラム街で、スタンは妻と息子、娘の4人で暮らしている。スタンは羊などの屠処理の仕事をし、一家は裕福ではなくても、それほど貧しくはない生活を送っていた。しかし仕事に励むなかで、日に日にスタンの精神は暗く落ち込み、眠れない日を送るなかで妻への愛情を表すこともしなくなっていた。 子供たちが無邪気に遊びまわっている街は、一方で物騒な犯罪が起き、スタンの周りの知人友人にも小さなトラブルは絶えない。 そんななか、家の車が故障したため知人からエンジンを買おうと出掛けるスタン。しかしエンジンを手に入れたスタンは、その直後思わぬ事態に見舞われるのであった……。

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