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「写宅部!」(プレミア映写を宅でする部)16日目-遠征編-

ラリー・チャールズ監督『オレの獲物はビンラディン』の試写に呼んで頂きましたので、写宅部の遠征編を始めたいと思います。2017年12月16日(土)シネマート新宿、シネマート心斎橋他にて全国順次公開です!

とどまることをしらず快調に映画に出まくり、その節操のなさから感じるであろう「ちょっとは仕事選べよ」感など遥か彼方へと置き去りに、もはや唯一無二の清々しささえ感じるニコラス・ケイジ主演の『オレの獲物はビンラディン』は、ある日神からビンラディンを捕獲せよという啓示を受け、ビンラディンを捕らえに暴走を始める人一倍愛国心の強い男ゲイリー・フォークナーの驚きの実話の映画化である。

なるほど、ケイジが啓示を受けるというわけです。

周りから絶対に理解されないであろう事柄に突き動かされて正気では考えられないむちゃくちゃな行動をするニコラス・ケイジというだけでも、もうくるわけですけれども、さらに興味深いは、神の啓示を映画でどう描くのか、ということかと思います。

特にアメリカ映画における神の表象というのは非常に根が深い様々な問題をはらんでいる事象なのは明らかでしょう。

それに『オレの獲物はビンラディン』は邦題が示す通り、ビンラディンを標的としているわけですが、ビンラディンの特徴とはなにより不可視であることです。不可視だからこそ、ビンラディンを一人で探すということが無謀な試みになる。不可視とはつまり標的との距離がわからなくなるということですので、近づいているのか、遠のいているのか、おしいのか、おしくないのか、ということすらわからない。

ひと昔前は政治陰謀劇系映画といえば、同じく不可視ということが問題であったとしても、それは視差の問題、『パララックス・ビュー』なんていう映画もありましたけれども、つまりはAが標的だと思っていたが、Aだと思っていたのは実はAではなくA’であったのだという、いわゆるA=A’構造であったと思います。ですので、『俺の獲物はビンラディン』に至って、現代はここまできたのか、という感じがなくもありません。

A=A’構造からビンラディン構造へ、というこの変化がもたらすのは、あなたの試みは、周りから見ればまったく「おしくない」=「無謀」となるわけですが、本人からすれば「おしい」かもしれない。さらには、周りに人も、まったく「おしくない」と思ってはいるけど、本当に「おしくない」のかはわからない、「あれ、もしかしてイイ線いってるかも、いやそんなバカな」という非常に微妙な感情の芽生え(の余地があること)でもあります。

そういう局面は、なにもビンラディンに限ったことではなく、いわゆる「夢を追っている人」と、その周囲の人との関係にも見い出せます。なので「夢を追っている人」(この映画ではビンラディンの捕獲ですが)に対してどう接するのか、というとても繊細で危うい気遣い、関係性というものが一つ大きな問題ともなるでしょう。

『オレの獲物はビンラディン』において、その問題系を一身に担うのが、ニコラス・ケイジの相手役、ウェンディ・マクレンドン=コーヴィです。ビンラディンを追う男をバカにするのか、応援するのか、叱責するのか、心配するのか、見放すのか、手を差し伸べるのか。この映画の彼女は本当に絶妙かつキュートで非常に素晴らしので、それだけで本作は一見の価値あり、という感じです(ウェンディ・マクレンドン=コーヴィの出世作?『ブライズメイズ 史上最悪のウェディングプラン』が気遣いバトルというような様相を呈していたのを思い出してみてもよいかもしれません)。

ビンラディンとニコラス・ケイジの距離はわからずのままですが、相手役ウェンディ・マクレンドン=コーヴィとの距離は見事に視覚化されており、実際に不可視であるビンラディンの捕獲を取るのか、自らの行動・言動によって近くもなれば遠くもなるウェンディ・マクレンドン=コーヴィを取るのか、という不可視と可視のコントラストが『オレの獲物はビンラディン』そのもの自体を駆動させています。

さて、アメリカ映画における神の表象というのは非常に根が深い様々な問題ある、と最初書いておきながら一向に「神の啓示を映画でどう描くのか」ということについて書けていないですが、可視/不可視の代表格であるところの神についてはぜひ本編を見て、ご確認、お楽しみにください、ということにさせていただきたいと思います。

ただ少しだけ事前にお伝えしておきたいのは、ニコラス・ケイジは以前、神ではないですが、キリストに出会ったことがあります。『ワールド・トレード・センター』です。

そして、もう一つ。『オレの獲物はビンラディン』の神役としてクレジットされているのはラッセル・ブランドです。神を演じてます。神を演じられるのはこの世界でウーピー・ゴールドバーグだけだぜ!(『私だけのハッピー・エンディング』)と思っていたので衝撃でした。

どう見ても神です。(『私だけのハッピー・エンディング』)

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【監督】ラリー・チャールズ
【脚本】ラジヴ・ジョセフ&スコット・ロスマン
【製作】ジェームズ・D・スターン / ジュリー・ゴールドスタイン
【音楽】デヴィッド・ニューマン 【撮影】アンソニー・ハードウィック
【美術】セバスチャン・スークプ 【衣装】メアリー・E・マクリード
【出演】ニコラス・ケイジ / ラッセル・ブランド / ウェンディ・マクレンドン=コーヴィ / レイン・ウィルソン / マシュー・モディーン
2016年/アメリカ/英語/92分/カラー/5.1ch/DCP/原題:Army of One/日本語字幕:岩辺いずみ/PG12/配給:トランスフォーマー
公式サイト:http://www.transformer.co.jp/m/finding-binladen/
(2017年12月16日(土)シネマート新宿、シネマート心斎橋他にて全国順次公開です!)

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『俺の獲物はビンラディン』の予告編に“神”ご出演シーンもありました。

では終わります。

(text:satoshifuruya

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Killer of Sheep

スラム街に暮らす黒人たちの暮らしを鮮やかに描き、望まれながらも長らく劇場公開されなかった、黒人監督チャールズ・バーネットによる幻の傑作。 1970年代中頃、ロサンゼルスにあるワッツ地区。黒人たちが住むそのスラム街で、スタンは妻と息子、娘の4人で暮らしている。スタンは羊などの屠処理の仕事をし、一家は裕福ではなくても、それほど貧しくはない生活を送っていた。しかし仕事に励むなかで、日に日にスタンの精神は暗く落ち込み、眠れない日を送るなかで妻への愛情を表すこともしなくなっていた。 子供たちが無邪気に遊びまわっている街は、一方で物騒な犯罪が起き、スタンの周りの知人友人にも小さなトラブルは絶えない。 そんななか、家の車が故障したため知人からエンジンを買おうと出掛けるスタン。しかしエンジンを手に入れたスタンは、その直後思わぬ事態に見舞われるのであった……。

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