『シアター・ワゴン〜As you like tasting…〜』Vol.1『早春 デジタル・リマスター版』
vol.1 イエジー・スコリモフスキ監督『早春 デジタル・リマスター版』
瞬間的で予測不可能な光年。主人公マイクはそれほどの速度で年上のスーザンに恋をし、衝動の赴くままに行動する。最初からエンジン全開のマイクに危うさを感じつつも、最後まで突進し続ける姿を見届けるしかない。カメラは待ってくれない、光を追いかけるのに必死だ。そして、強烈なラストシーンは、ついに”ブルー”に”赤色”が流し込まれていく。
いやこれはもう見事すぎる、スコリモフスキ監督。ポスターからただならぬ雰囲気を醸し出す恋愛映画だとは思っていたけれど……。
『早春デジタル・リマスター版』のポスター。日本では1972年の劇場公開以降長い間眠り続けた作品らしく、今年ついに劇場公開している。他にもたくさんのポスターが出まわっているのだが、それらもまた最高!瞬間を映し出した数々の美しいシーンを想起せずにはいられない。
このポスターでマイクが抱えているのはスーザンに似ている等身大のストリッパーの看板。本来はスーザンの生身の肉体を求めている。この作品はチェリーボーイの心を掻き立てるスーザンの魅力あってのものだ。彼女の魅力をあぶり出してみる!
画面から伝わる色気。実を言えば、私はこれにとても憧れている。
『マッチ・ポイント』のスカーレット・ヨハンソン。ブロンドにキリッとした眉とぷっくらした唇は挑発的で壮美な表情を作り出す。『ロスト・イン・トランスレーション』ではその魅力を大いに発揮して、おじさんをコロり。ハリウッド女優の中で高級ホテルの白いベッドが一番似合う女性じゃないかしら。他にも『ドリーマーズ』のエヴァ・グリーン。映画内で翻弄される男たちと同じ、私も彼女たちの首筋や、すらっとした手足に釘付けになる。しまいには巻き戻して、比べた自分のムチムチした手をつねったりする。さらに、彼女たちはkiss meやらfollow meやらをほっぺに書いておいといて、そのうち何か夢中になるものを見つけるとそっぽ向いてどっかいってしまうんだから。私たちはそんな彼女をもう一度振り向かせようと、追いかけたくなるものね。ある種の男の子たちはイチコロ。監督だって多分、ときめいちゃってるんじゃないの。。。
そう、色気を含んだ芝居は結構無敵で、どうしても目がいってしまう。くそー! いいな、色気……。
さて、『早春』のジェーン・アッシャー演じるスーザン。彼女の存在は他の映画のヒロインとは少し違う特別な存在のように見える。マイクが惹かれたのは年上のお姉さんだからというだけではないような魅力が彼女にはある。赤毛に小動物のようなたるんだ目はキュートとも言え、マイクに対しての遊び心はあどけなさも感じられる。あからさまな色気をマイク相手にはむき出しにしない。その白々しささえもきっとマイクを惑わせているのだろうけれど。
色気で集約させない存在感。代わりに、スーザンとして存在の”浮遊感”を漂わせている。婚約者がいるにもかかわらず先生と関係を持つことにも迷いは見えない。映画館でなぜマイクにキスしたのかもわからない。彼女の行動の裏側に考えを巡らせているが、いまいち見えてこない。スーザンが一体男性の何を見て、何に惹かれているのか。あーもう、すでに翻弄されてる、じぶん!
それが、ラストシーンによってふと、腑に落ちた。それまでの“動”であったスーザンは“静かに”マイクを受け入れる。身体は沈み、動くのは瞼と小さな息を吐いた口元。これまでの振る舞いがここにたどり着いたと思うと鳥肌がたった。
結果、私はこれが最高峰の色気の使い方と学んだ。動と静の使い方(メモ)
私がやると、とんだ勘違いになりそうだ……。
「YEBISU GARDEN CINEMAにて23日(金)まで、全国順次公開中!
≪作品データ≫
監督・脚本:イエジー・スコリモフスキ
脚本:イエジー・スコリモフスキ、イエジー・グルザ、ボレスワフ・スリク
撮影:チャーリー・スタインバーガー
出演:ジェーン・アッシャー、ジョン・モルダー=ブラウン、ダイアナ・ドース、カール・マイケル・フォーグラー、クリストファー・サンフォード、エリカ・ベール
音楽:キャット・スティーヴンス、CAN
1970年|イギリス・西ドイツ|原題:Deep End|カラー|92分|デジタル・リマスター
提供:マーメイドフィルム、ディスクロード|配給:コピアポア・フィルム|宣伝:VALERIA
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