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『シアター・ワゴン〜As you like tasting…〜』Vol.2『タイニー・ファニチャー』

はじめ、『タイニー・ファニチャー』についてのコラムを書くことに戸惑いがあった。それはとても私的なものになりそうだったし、私をさらけ出して書かなければ『タイニー・ファニチャー』に関してはダメだと思ったから。だけど、書かなきゃ。書きたい衝動の自分に抗ってはいけないとこの映画を見た後に感じた。本能に従うべきだなって。

そして、それを促すために今、主題歌であるteddy blanks の『when you come home』を聴きながら書いている(音楽を聴きながら作業するのが私にとっての最高の集中の仕方)。もちろん大好きなアイミティー(喫茶店『ケニヤン』の名物)はそばに置いてね。糖分は必要でしょ。そう、できるだけそのままで。画面の中に生きるレナをみた時の衝動と同じように。

と思ったら曲がいきなり止まったので一度、冷静になる。
あ、もしサウンドトラック気になる人がいたらこのページへ。
無料ダウンロードできるみたい……! 素晴らしいね。

私が『タイニー・ファニチャー』を見たのは去年の10月に開催された「ほぼ丸ごと未公開!傑作だらけの合同上映会」で、Gucchi’s Free Schoolの推薦した映画だった。
実はその前に見た『ニュー・カントリー』が最高で、見事な脚本と印象的な映像に頭が引っ張られていた。映画二本立ては全然ありなのだけれど、このまま『ニュー・カントリー』に想いを馳せながら帰宅してお昼寝でもいいかななんて思ったりしてた。そんなこんなで映画が始まった。

予備知識ゼロ。車の中で真っ白なハムスターを抱えてふてくされている少女が画面に映る。

正直、顔が天使のように可愛いくて、完璧なスタイルの主人公は山ほど見てきた。でもその度に思ってた。彼女たちが映画の中で語る綺麗な真実はその美貌によるものだ。
しかも、ほとんどは美しい心を持ってる。だから、劇中でハッピーになるし、いい結末で終わる。でも、現実はそんな上手くいきっこない。痛みは痛みのまま残るし。幸せは綺麗なまま残らない。皮肉にも、それはそれでよかった。私もこうだったら良かったのにと思いつつも、映画だからと割り切っていたし。そういった人たちを見ると自分も浄化されてく気がしたから。そんな非現実的な美を持った彼女たちが映し出されることで私は非現実的な映画の世界を憧れとして信じることができていたんだとも思う。

ただ、車から降りたオーラの姿。彼女はスペシャルだった。これは作り物ではなくて彼女の意思によるものなんだって理解した。この映画は等身大なんだって。

私はぐったりしていた姿勢を正して、本気で向き合うことにした。のちに主人公オーラがこの映画の監督、脚本、またプロデューサーであるレナ・ダナムだと知る。

99分。前に進むしかない道にオーラは歩いている。急に走り出したり、立ち止まったり、かと思ったら路上に座りだして駄駄を捏ねることもある。その後をつけて私は彼女を見守っていた。だんだん彼女の息遣いが聞こえてくる。

飼っていたハムスターを埋葬するために冷蔵庫にしまっておいたこと
まわりには変な友達が多いいこと
妹の大勢の友達の前で下着姿で現れること
バイト先のイケメンとドラム缶の中でsexしてしまうこと

私は彼女の行動が愛おしいと思う。


オーラを見て感じる。本当は人の物差しなんてあてにならない。自分の行動なんて自分しか実感できないんだから。それでも、他人からの批判は怖い。賞賛は嬉しい。あなたのことが好きと言われたら本当に?って聞き返してもっと好きを欲しがるし、うるさい!なんて言われた際には部屋から20分は出てこない。相手からどう思われるかに常に振り回されてる自分がいる。いつしかそんな私は仮面で自分を隠し、鎧で自分を守っていた。どこかに息しづらさを感じながら。それでも気づいてよって思ってしまう。誰かが私の鎧をとって震えてる体にやさしく触れて、仮面の奥の寂しい顔を見つけだしてくれるんじゃないかって。あぁ、なんて自己欺瞞なんだろう。

オーラはそんなビクビクしてる私に正面からぶつかってきた。裸を晒すことにも誇らしげに、仁王立ちして立っている。「何も恥ずかしいことはないじゃない。仮面と鎧をとってしまえばみんな裸を恥ずかしがってる人間なのよ。裸の私を見てみてよ。これが私の痛み、喜び、不安。」と言ってそれらを差し出してきた。そんな彼女も震えてる。
いい迷惑だと思う人もいると思うけど、私は裸の付き合いを必要としていた。
裸で飛び込んでいけば、相手は拒否するか受け入れるしかないでしょ?強引だけど、曖昧なものは怖い上に満たされないから。全然会わない人とたまたま会ってまたご飯行こう!って嫌。一回も行ったことないじゃん。また仕事しましょうのまたっていつ?って思う。

こんなんじゃ社会でうまくやっていけない気がした。でも自分らしく社会とつながりたい。私の呼吸で前に進むのみだ。

この映画は完全なるレナの呼吸。
映画って個人的なものでいい気がしてきた。
私は、レナ・ダナムが、
『タイニー・ファニチャー』が大好きだ。


4/21(関西初上映!)Cinematic Skóla vol.2 ~シネマティック・スコーラ vol.2~

★★★

5/5「女の子よカメラを持とう×TAMA CINEMA FORUM ~映画の中の私たち~」


監督・脚本・主演:レナ・ダナム
製作:カイル・マーティン、アリシア・ヴァン・クーヴェリング
撮影:ジョディ・リー・ライプス
音楽:テディ・ブランクス
出演:ローリー・シモンズ、グレース・ダナム、ジェマイマ・カーク、アレックス・カルボウスキー、デヴィッド・コール、メリット・ウェバー、エイミー・サイメッツ
2010|アメリカ|原題Tiny Furniture|カラー|シネマスコープ|99分
配給・宣伝:グッチーズ・フリースクール

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Killer of Sheep

スラム街に暮らす黒人たちの暮らしを鮮やかに描き、望まれながらも長らく劇場公開されなかった、黒人監督チャールズ・バーネットによる幻の傑作。 1970年代中頃、ロサンゼルスにあるワッツ地区。黒人たちが住むそのスラム街で、スタンは妻と息子、娘の4人で暮らしている。スタンは羊などの屠処理の仕事をし、一家は裕福ではなくても、それほど貧しくはない生活を送っていた。しかし仕事に励むなかで、日に日にスタンの精神は暗く落ち込み、眠れない日を送るなかで妻への愛情を表すこともしなくなっていた。 子供たちが無邪気に遊びまわっている街は、一方で物騒な犯罪が起き、スタンの周りの知人友人にも小さなトラブルは絶えない。 そんななか、家の車が故障したため知人からエンジンを買おうと出掛けるスタン。しかしエンジンを手に入れたスタンは、その直後思わぬ事態に見舞われるのであった……。

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