祝『サンダーロード』公開!
グッチーズ配給作品ではないですが、グッチーズができることなら配給したいと考え、DVD&動画配信でーたさんでの連載「トレジャーハンタークラブ」の記念すべき第一回でも取り上げた、サンダンス映画祭で短編グランプリを獲得した「Thunder Road」を、ジム・カミングス監督自らが長編化した『サンダーロード』が無事に日本公開となったので、「トレジャーハンタークラブ」の記事を転載したいと思います。
本当に素晴らしい映画なので(といっても字幕付きで見ていないので、改めて日本語字幕付きで鑑賞したいと思います)、みなさまもぜひ。
DVD&動画配信データさんでの「トレジャーハンタークラブ」は今も連載中ですので、こちらもよろしくお願い致します。
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B・スプリングスティーンを愛す 父親の滑稽で美しい生き様
「トレジャー・ハンター クラブ」 は、純粋に面白くて興味深い、けれども日本では未公開の映画を紹介する文化系クラブです。いつか日本でも観られる日に備え、既に 日本でも観られる作品も「補講」として紹介していきます。部員は私グッチーズの降矢と字幕翻訳を手掛ける上條葉月。そして元俳優、 現〝旅人〞の小川あんです。紹介した映画でまだ買い手がいなければ、 どなたかぜひ買ってください!
さて、記念すべき第1回目の作品は、期待の若手ジム・カミングス監督&主演の『サンダー・ロード』です。本作は、2016年のサンダンス映画祭でグランプリに輝いた同名短編が基になっています。母の葬式で、息子が思い出の曲であるブルース・スプリングスティーンの「涙のサンダー・ロード」を熱唱し、ダンスを捧げる姿をワンカットで撮り切ったユーモ ラスでエモーショナルなその短編は、大きな注目を浴びました(現在、動画共有サイトVimeoで 視聴可能)。
複数のプロダクショ ンから製作依頼を受けたカミングス監督は、6本の短編をつくり上 げた後、本作を完成。SXSWで見事グランプリを獲得しました。 長編も短編と同じく葬式の場面 から幕を開けます。しかし葬式で 流れるはずの「涙のサンダー・ロード」は、ラジカセの故障というハプニングにより流れません。ジム が亡き母に捧ぐ無音の「涙のサン ダー・ロード」ダンスという名の落雷は、衝撃的な滑稽さで映画開始 わずか 分で私たちの表情筋を激しくピクつかせます。この冒頭の 1シーンだけとってみても、カミングス監督の人間という生き物に対する洞察の鋭さとそれを表現する力量が十二分に感得できるはず。
監督自らが演じている警察官のジムは、離婚調停中の妻と幼い娘 クリスタルの親権を争っているのですが、娘との交流のシーンがこれまたいちいち良い。例えば、娘 から一緒に手遊び(アルプス一万 尺のみたいなやつ)をしようとお願いされるシーンがあります。重要なのは、「手遊び」が勝敗を競うものではなく、あくまで相手のリ ズムを感じ取り、協同していかなくてはならないゲームであるとい うことです。もちろん人生は、娘と手遊びが上手にできただけで丸く収まる簡単なものではありません。
しかし世界にはさまざまな固 有のリズムがあり、それを受け入れて、新しい関係を生み出すことの難しさと素晴らしさが、ここには描かれているような気がします。 そしてそれは、映画冒頭「涙のサ ンダー・ロード」が流れず、泣き崩れて終わった葬式でのダンスにも 通ずるはずですし、ジムが、つまりは私たちが直面するあらゆる軋轢とも密接に関係しているはず。 本作の滑稽さと愛おしさは、不器 用ながらもこの世界と踊り続ける私たちそのもののようです。
©The 10 East、©Sundance Selects、©The Weinstein Company /Courtesy Everett Collection/AFLO
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